自分の体の変化に気づくということ
「自分の体の変化に気づく」というのは、実はとても難しいことのようです。
人の脳は、小さな変化を感じ取らないようにできていると言われています。もし、体のわずかな変化をいちいち意識していたら、刺激の多い世界の中で生きていくことは難しいことになってしまうからです。
そのため、少し筋肉や靭帯を傷めた程度では、脳はそれを「不調」として教えてくれません。
言いかえれば、自分で体の不調をはっきり感じるようになっている時点で、すでに体が「そろそろ限界ですよ」というサインを出している可能性があるということです。
東洋医学でいう「未病」とは
東洋医学では、このような“まだ病気ではないけれど、健康とも言えない”状態を「未病」と呼びます。
「病気は未病のうちに治しましょう」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、実際には、体が何のサインも出してくれない段階で未病に気づくのは、とても難しいことです。
だからこそ、誰かに自分の体を見てもらうことが大切なのです。
客観的に体を観察してもらうことで、自分では気づけなかった「小さな変化」を知ることができます。
ある40代男性のケース
先日、40代の男性が初回の全身コース(90分)を受けに来られました。
主訴:
首から肩にかけてのつらさ。
腰はあまり気にならず、下半身も特に問題は感じていない。
この方は会社員で、現在は育児休暇中。子どもを抱っこすることが多く、いつも同じ側で抱えているため、「肩まわりが歪んでいる気がする」と話されていました。
体の観察と触診から見えてきたこと
実際に見てみると、右の肩が高く、首の右側が短く見えます。
触診では、右の肩甲帯まわりの筋肉に強い緊張がありました。肩甲帯は左へ回旋し、その土台となる胸郭は右へ回旋――まるで肩甲帯と胸郭が“喧嘩”しているような状態です。これでは確かに「歪んでいる」と感じても不思議ではありません。
さらに気になったのは、第6~8胸椎の棘突起に触れようとすると、体がスッと逃げてしまうこと。いわゆる「逃避反応」です。
「前から、そこは人に触られるのが苦手なんだ」と本人も話されていました。
原因は胸郭の動きにあった
「これは?」と思い周囲を丁寧に確認していくと、左第6~8肋骨の動きが悪くなっていました。体を右に側屈しようとすると、左の肋骨が抵抗して動かないのです。
その部位は触れることができたため、可動性を丁寧に回復させていくと――
なんと、これまで触れられなかった第6~8胸椎に触れられるようになりました。
ただし、その直後は「そこ、痛いです!」と強い痛みを訴えられました。
人の体は、少しずつ変化していく
体の反応は、次のように段階を経て変化していきます。
触れられない
→ 触れられるが痛い
→ 痛痒い
→ 痛気持ちいい
→ 気持ちいい
→ 何も感じない
このように、段階的に変化していくのが理想的です。
(意外に思われるかもしれませんが、一番良い状態って”何も感じない”ことなんですよね)
ただし、一度にやりすぎるのは禁物。小さな変化が見られたら、その日の施術はそこで終わりにする方が良いと考えます。
その変化に対して、体が次の日以降どんな反応を示すかが大切だからです。
本人の感想
「背中の一か所は、誰に触られても“うっ”てなるんだよ。もう、自分の体はそういうものなんだと思っていた。でも、施術を受けていると“うっ”てならなくなるね。」
「左側の胸がこんなに硬かったなんて知らなかった。」
施術後には、胸郭左側のストレッチ方法をお伝えしました。
忘れていた“古傷”にも気づく
この方は「下半身は特に気にならない」と言われていましたが、実際には両足首に独特の硬さがありました。
そのことをお伝えすると、
「そういえば、右足は陸上のときに怪我をしたことがある。
左足はバイク事故でやったんだった。すっかり忘れてたよ。」
と、昔の怪我を思い出されたのです。
体というのは、本当に記憶していますね。私たちが忘れても、体はしっかりとその経験を残しています。
おわりに
初回コースでは、体への”気づき”の時間を大切にしています。
まずは、ご自身の体がどんな状態なのかを一緒に確認してみませんか?
思いがけない体のウィークポイントに気づけるかもしれません。
2回目以降は、初回で見られた所見に基づいて、あなたの体に合った施術をご提供いたします。
自分では気づけない“体の声”を、第三者の手を通して感じ取ること。
それが、未病の段階で体を整えていくための第一歩になるのかもしれません。



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